バンコクで楽しむ多国籍料理

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ドバイ人の男

タイのバンコクに住んでいた頃、偶然デパートで声をかけられ友達になったドバイ人の男性がいた。

彼はとても気さくで明るく、いつも私や友人に“Are you happy?(君は今幸せかい?)”と、まるで口癖のように逐一一緒に過ごす相手の機嫌を確認するような、心配性で面倒見の良い、とても優しい男性だった。

恐らく、疾うに50歳を過ぎたであろうその彼は時折、「僕は妻も子供も持たない人生を歩んできたから、こうやって色んな国で仲良くなった人たちを、自分の大切な家族だと思っているんだ。」と、心の何処かに密かに抱えている自分の寂しさを紛らわすかの様に呟いた。

そして、“You are my family, ok? I’ll help you anytime if you need any help!!(もう君も立派な僕の家族の一員だ。困った時はいつでも力になるぞ!)”と、よく私の目を真っ直ぐに見つめては強く手を握り締めた。

きっとこの広い世界には、彼のような経済的に豊かな男性は星の数ほど居るのだろうが、一体その中で何割の人間が精神的にも充実した真の幸福感を得られる人生を歩んでいるのだろうか。

巨大なプールが屋内にあり、インテリアのあちこちがゴールドで飾られた、まるで城のような大豪邸をドバイに構える彼でさえも、積もり積もった「孤独」を埋めるのには苦労している様子だった。

バンコクで楽しむレバノン料理

ある日、私はドバイ人の彼とタイ人の女友達からディナーに誘われ、3人でご飯を食べに行く事になった。

ドバイ人の彼の希望で、その日はバンコクでも評判の良いレバノン料理レストランに行くことになった私たちは、徐々に日が暮れて夜がやってくると同時にトゥクトゥクに乗り込み出発した。

三輪タクシーの「トゥクトゥク」は、タイ観光では非常にメジャーな乗り物で、実際にバンコクに住んでいると乗る機会は非常に少ないのだが、バンコクという街の空気感や雰囲気を楽しむには打って付けの交通手段だ。

トゥクトゥクの運転手のほとんどは運転が非常に荒く、相手が観光客だと分かると見事に乗車料金を吹っかけてくるので、乗り心地が快適とは決して言えないが、バンコクらしいかなりワイルドで貴重な体験が出来るだろう。

こうして私たちは、勢いよく荒ぶるトゥクトゥクに揺られながら、いよいよネオンがギラつくバンコクの夜の街へと繰り出すのであった。

こうして到着したのは、バンコクでも有名な歓楽街「Nana(ナナ)」。

ここには「インド人街」や「アラブ人街」などの異国情緒溢れるエリアが存在し、主にバンコクへの移住者や旅行者、出稼ぎ労働者で構成されていて、ついさっきまではタイ語で溢れていたはずなのに、一歩そのエリアに足を踏み入れると、もうそこはタイではないのである。

立ち並ぶ飲食店のジャンルは勿論、店の表記や行き交う人々の言語、服装までもが一瞬にして様変わりし、実際に私がここで出会った人々はトルコやエジプト、オマーンやシリアの出身だった。移民問題はさて置き、一つの街でこんなにも多種多様な国の文化を全身で感じられるのがタイ・バンコクの一つの大きな魅力とも言えるだろう。

そして、私たちはこのNanaのアラブ人街の大通りでトゥクトゥクを降り、“Bamboo(バンブー)”というレバノン料理レストランへと向かった。

私は“レバノン料理”というものが人生初体験な上に、人気店のはずなのに何故か店内は薄暗く、若干治安の悪さを感じるようなミステリアスな雰囲気に一気にアドレナリンが大放出するのであった。

好奇心が人一倍強く、世界各国の怪しげでちょっと危険な地域に行くと、ワクワクとドキドキでテンションが上がってしまう傾向がある、私の非常に偏った趣向にはぴったりの場所なのである。

こうして私たちはスタッフに案内された席に腰を下ろし、ドバイ出身の中東人の彼がお墨付きならきっと何でも美味しいのだろうと、メニューは彼に全てお任せしていると、次から次へと大きなお皿に大胆に盛られたレバノン料理がやって来た。

レンズ豆のスープにひよこ豆をペースト状にしたホムス、大量のピタパンに豪快なサイズのちょっとスパイシーなケバブ。

レバノン料理は基本的にゴマやレモン、オリーブオイル、ヨーグルトなどをよく使用するようで、宗教の関係上お肉よりも野菜料理が発達しているらしく、脂っこくて重たい料理が苦手な私でも、バラエティー豊かに楽しめる初めてのレバノン料理に大満足であった。

「食文化」とは非常に奥深く面白いもので、例え現地に実際に赴く事は難しくとも、その国独自の文化から生まれた食事をするだけで、その土地の文化や思想、歴史的背景もが見えてくるものである。

「遠くには行けないけど、旅気分を味わいたい。」「全く行ったことのない国を日本に居ながら体感してみたい。」という方は、先ずは手軽に「食」から始めてみるのもいいかもしれない。