前編はこちら
淑女はホイホイ男について行くべからず
イタリアのミラノという地で、「ロシア人×日本語ペラペラ(しかも関西弁120%)×頭部BEGIN×下半身歌舞伎町」という難解スペック男子と運命的?な出会いを果たした私は、なんとも軽い気持ちで彼と一緒にコーヒーを飲みに行くことにした。
あちこちフラフラと話しながら歩いてカフェを探し回ったが、夕暮れ時の微妙な時間帯だった為にどこのカフェも閉まっており、恐らく17時頃から始まるアペリティーボ(イタリアのハッピーアワー)の準備でどこも忙しそうな様子だった。
この際「どこも開いてないし、帰ろうぜ!」と、試合放棄宣言したいところだったが、そんな後味の悪すぎる別れはあまりにも大人気なく酷すぎるかと悩んでいると、彼はこう切り出した。
「俺、ホテルじゃなくて友達の家を借りてんねんけど、そこでコーヒー飲もうや。」
名探偵 窪ゆりかは透かさずこの状況を把握し、自分の過去の過ちデータを即座に集計。そして、以下のような結果が私の頭を過った。
“よく知らない異性からの「お家へGO!!」のお誘いは、100発100中ろくでもない。”
しかし、そのような私による私の為のビックデータを使用したエビデンスがあるにも関わらず、人間というのは非常に愚かな生き物で、過去からの学びを一切無視して、時として過ちを繰り返すのである。(ドヤ顔)
私は、この怪しい誘いに対して一瞬戸惑ったものの、「お互いにいい大人だし、密室に男女が二人きりになったからと言って、必ずしもそういう流れになるという訳でもないか…。」と、なんとも楽観的な考えを抱きながら家へと向かった。
注)良い子は見知らぬ男には絶対について行ってはいけません。

クラシックなアパートのドアを、ゆっくりと音を立てながら開けてみると、奥の大きな窓からは暖かな光が差し込み、窓の横には年季の入ったピアノがあった。常に綺麗に整頓されたホテルとは違い、現地の人が実際に暮らしている雑多な部屋は生活感に溢れ、リアルなミラノ生活を感じさせてくれた。
そして、彼は「とりあえず座って。」と言って私をリビングのソファに案内すると、キッチンの冷蔵庫から炭酸水とグラスを持ってきて、私の横にゆっくりと腰掛けた。ヴィンテージソファのコイルは軋み、二人の重みでゆっくりと沈んでいった。
それから恐らく30分位が経った頃だろうか。先程となんら代わり映えのしないお気楽ムードでたわいない話をしていたその瞬間、遂に彼が動いたのである。
何を思ったのか、彼は一度だけ軽くソファから腰を上げて、そのまま何食わぬ顔で「ふぅー」っと深いため息をつき、先ほどよりも明らかに私に近い距離に座り直したのである。
出たっ!!飽くまで自然を装いながらも、ちまちまと距離を詰める戦法!
ごく自然にため息を付きながら座り直して、「あれ?俺達さっきもこの距離感だったよね?」みたいなとぼけた顔して、突如パーソナルスペースに突入してくるのは完全に確信犯なのである。もしこれがタイプの男だったら両手を広げて大歓迎なのだろうが、今回は見事なまでに相手が違う。
私の彼に対する警戒度は、この彼の「ちまちま戦法」を機に益々上がり、恐怖のデスマッチのゴングは鳴るのであった。
耳元でささやく男
何も言わずにそっと彼とソファの上で距離を取った私だったが、相手は屈強なロシア連邦。そう簡単にはいかないのである。彼は、先程の「ちまちま戦法」では埒があか明かない事を俄かに悟ったのか、今度は勢い任せにグッと私に距離を寄せて急に肩を組んできたのだ。
ひぃぃぃぃぃいいいい!!!(震)
男女が一つのソファに座り、男性が女性の肩に腕を回す光景というのは、本来ロマンティックなものであるはずなのに、ロシア人に一方的に肩を回され身を寄せられるその光景は「恋仲」というより、ただの強いられた「同盟」。あまりのこの違和感に、思わず私の脳裏には鈴木雅之が流れるのである。

私は、この半ば強引な日露同盟を破り捨て、彼のやる気スイッチの電源をオフにすべく、自分の左肩に回された手を優しく彼の膝元に戻し、無理矢理生み出されようとする似非ロマンティックな雰囲気を壊すことに必死だった。
しかし、彼の勢いは止まることはなく、むしろ私に抵抗されることに逆に興奮するタイプなのか、彼のボルテージは更にヒートアップ。そして、彼はわざわざ私の耳元で吐息混じりにボソッとこう呟くのである。
「ええやろっ…?」
ぎえぇぇぇぇぇええええええ!!!(狂)
「あんた、やしきたかじんかっ!」と、突っ込みたい思いに襲われながら、私の足先から脳天までを光の速さで虫酸が走り、こういう事は金輪際やめてくれと彼に言い伝えた。しかし、彼は性的スイッチが入ると聴覚を完全に失うという特異体質のようで、私にこう続けるのである。
「キスくらいええやんっ…?」
いっ…一体何を言ってるんだこいつは!!(驚愕)
先程、肩を組んでもロマンティックの欠片も感じられず、耳元の囁きに対して鳥肌を立てた男に、キスをしたいだなんて感情が芽生える訳もなかろう。しかし、そんな私の気持ちを他所に、彼はどうにかこの状況を押し切ろうという気持ちで一杯の様だった。
私は、彼のその身勝手な言動に、つい無意識的に眉間に皺を寄せ集めて睨みをきかせると、彼は「まぁまぁ、そんな怖い顔せんでよ〜。」と言いながら静かに立ち上がり、奥のキッチンへと歩いて行った。
「これは一時休戦か?!」と思いながら気を抜くのも束の間、彼はなんとキッチンからワインボトルとグラスを持って堂々とリングに再登場。シラフでダメなら酒で酔わせてどうにかしようという、何とも分かりやすい方法で戦いに挑んでくる彼に、私は「ウォッカじゃなくて良いのか?」と皮肉った。
そして彼は、私が自分のタイプではない男と一緒に酒を飲む時に限り、いくら酒を飲んでもこれっぽっちも酔わないという、恐ろしくコスパの悪いザル女だという事を知らないのであった。
女にも断る権利はある
結局、私たちは美味しいイタリアンワインを飲みながら、その後も一進一退の攻防戦を繰り返した。そして、アルコールが程よく回ってきた頃、彼は隙をついて私のシャツに強引に手を忍ばせてきたのである。
なーにしとんじゃ、このボケナスーーー!!(怒)
勝手に人の領土に手を入れてんじゃねー!!(睨)
私は怒り心頭に発して彼の手を強く振り払い、例え明日この世の終わりが来ようとも、私はあなたと寝ることは絶対にないと、過去一番の勇ましい面構えで言い伝えた。
流石にここら辺で彼も引き下がってくれるだろうと思ったが、彼は私の想像より遥かにめんどくさい男のようで、私に拒否された事が相当気に食わなかったのか、明らかに面白くなさそうな表情を浮かべて何故ダメなのかとしつこく理由を聞いてくるのである。
良いか?よーく聞いてくれ。
私が抱かれても良いと思うロシア人は、以下の3名だけだ。

リズムの天才
(故)ピョートル・チャイコフスキー

ロマン派の巨匠
(故)セルゲイ・ラフマニノフ

ラストエンペラー
エメリヤーエンコ・ヒョードル
「誰があんたと寝るかい!」と言いながらも、どうも力で突っぱねただけでは聞かない様子の彼に対して、私は続けてこう告げた。
「単純に、私がそういう気分にならないだけなんだよね。」
それを聞いた彼は、すぐさま「俺が良い男じゃないからかっ!」と、嘆きながら突如メンヘラ化し、面倒くさい男の第4形態に進化。確かに、彼は自分にとって、タイプかタイプじゃないかでいうと全然タイプではないのだが、私は彼のこの『自分が良い男ではないから、相手がセックスに応じてくれない』という思考に対して少し疑問を感じた。
これは女性に限らず、男性でもその他の性であっても当てはまる事だが、誘われた相手が自分のタイプかどうかというだけで、全ての人間が直ぐに身体を許す訳ではない。例え相手に対して好意があっても、その瞬間に気が乗らなければ、誘いを断る権利だって当然あるのだ。その場の“空気”を乱さない事を優先して、自分の本当の気持ちに蓋をする必要なんてないのである。
私はそういった気持ちを彼に的確に伝えようと、その時に感じたことを素直に話した。
「あなたが良い男かそうじゃないかという事は関係なくて、私が勢い任せにそういう気持ちにはならない人っていうだけなんだよね。」
「20代の若気の至り的なノリはもうないし、勢いだけで男性に身体を許してしまうのって、結局後で自分自身が傷付くんだよ。」
「たかがセックスぐらいに考えてるかもしれないけど、カラダの安売りってあなたの想像以上に身体も精神も相当削るからね。」
彼は、私の横で腕を組み、とても真面目な表情で「うんうん」とゆっくりと頷き、私に理解を示してくれている様子でこう返した。
「別に楽しめばええだけやん?」
お前、今の私の話聞いてたか?
確かに、真面目で凝り固まった固定概念を、時には勢いで突破するというのも人生の中では大事なことではあるが、それは完全に今この瞬間ではない上に、相手はこいつではないのである。
その後も、次から次へと強引に私の身体にまとわりついてくる彼の手や足を振り払うその二人の姿は、誰の目から見てもこれから寝るか寝ないという次元ではなく、ただの総合格闘技。国を跨いだ男と女の熱き戦い“RIZIN”が、年末の日本ではなく、真夏のミラノという地で繰り広げられているだなんて、誰が想像しただろうか。
私は今まで、女一人で色々な国へ行き、その土地で様々な男性と出会ってきたが、残念な事に「日本の女性は誘いを断れないから強く押せばどうにかなる」と考えている男性が多いというのが現実だ。もちろん、中には性に開放的な日本人女性もいるだろうし、こういった事が一概に悪いことだとは決めつけられない。しかし、私はそうやって、相手が弱そうな事を良い事に、人の気持ちを無視して嘗めてかかり、楽して自分だけ良い思いをしようとする男が大嫌いなのである。
私の“NO”と言う意思や考えを一切聞き入れず、押せば一発いけるだろうという浅はかな考えが全身から滲み出るこのロシア人を前に、私は「日本人女性だってNOと言う!」という熱い思いを胸に、誰も頼んでいないのに自ら日の丸を背負って全日本人女性のプライドをかけ、この異国の地で繰り広げられるロシア戦に挑み続けるのであった。
延長12回
もう、ここへ来てから何時間が過ぎただろうか。時計は確認していなかったが、来た時には明るかった空は、いつの間にか真っ暗になっていた。しかし、こんな長期戦にも関わらず、このしょうもない口論は静まる事なく、何故かヒートアップするのである。
ロシア人:「ええやろ〜?もっと快楽ってもんを君は知った方がええんちゃうん?」
私:「いやいや、あんたにとっての快楽が私にとっての快楽とは限らないだろ!一緒にすんな。」
ロシア人:「何がそんなに怖いん?考え過ぎやろ〜?なぁええやんかぁ〜?」
私:「あなたがしたいのは理解したけど“私”はしたくない。自分の欲に溺れて相手の意見を無視するな。」
ここまでのやり取りでは冷静に答えていたのだが、次に発せられた彼からの一手で、遂に私の堪忍袋は切れるのである。
ロシア人「なんや、君はほんと男みたいやな!女と話をしてる気がせんわっ!!」
はぁぁぁぁああああああ?!?!
黙れ、このプーチンがぁぁぁああ!!!(狂気)
「自分の思い通りにならず、言う事を聞かない女=男みたいだ」と言い始める彼に対し、私は先程のまでの冷静さをぶん投げて、イライラがMAX急上昇。そして、彼はこれに更に畳みかけるように最後の核爆弾のスイッチを押すのである。
ロシア人「そんなんじゃ、モテへんで?」
テンメぇぇぇええええええ!!!!!(怒)
秋田犬の抜け毛集めて口に突っ込んで黙らせたろかー!!!!!
↑プーチンが秋田犬好きなので。
私は最後にグラスに残った赤ワインを一気にぐいっと一気飲みして、「ついでに北方領土問題についてもこの勢いで話しましょうか?」と言いたいところだったが、時計をふと見ると、なんとこの時既に4時間半が経過していたのである。
「こんな男に4時間半も私の貴重な人生を使ってしまった」と、一瞬自責の念に苛まれたが、この怒りを一旦脳みその傍において、瞬時にアナと雪の女王もびっくりの冷静さと冷酷さを取り戻し、「あなたが女性に求める女性らしさが何かは知らんが、私はあなたに女性らしいと思われなければならない必要もなければ、あなたの基準に合わせて男からモテなければならない必要もない。」とだけ言い残し、一人で家を出た。
明日の朝、ミラノからヴェネツィアに移動予定だった私は、このミラノの最後の夜の時間の使い方を完全にミスったことを心底嘆き、この約5時間に渡る忌まわしき記憶をどうやって消すべきかを、真っ暗闇のミラノの街を一人歩きながら考え始めた。
しかし、その時だった。
なんと彼は、私の名前を大きな声で叫びながら、必死な表情で後ろから走って追いかけてくるではないか。流石に「さっきは悪かった」と謝ってくるのだろうと思い振り向くと、彼はこう言った。
「LINE聞くの忘れとったわ!!」
断るっ!!!!!!!
完
あなたにオススメの記事
イタリアのミラノで出会ったロシア人との大論争!日本人女性のプライドをかけた戦い。
Vol.01 セックスの誘いを論理的に断ったら余計拗れた話〜第一次ロシア大戦【前編】
Vol.02 セックスの誘いを論理的に断ったら余計拗れた話〜第一次ロシア大戦【後編】